NHKのラジオ番組「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ(Enjoy Simple English)」では、簡単な英語でいろんなストーリーを楽しむことができます。
この番組には、和訳(日本語訳)が付いていません。「英語で聴きなはれ」というわけです。
でも「和訳がほしい」と思う方もいらっしゃいますね。そんな方へ向けて、私の拙訳を公開します。逐語訳ではありません。内容をつかむための参考になさってください。
今回は、かのコナン・ドイル原作 ‘The Adventure of the Three Students’(三人の学生)の第二話です。では、どうぞ。
三人の学生 第二話
ホームズと僕は、ソームズ教授の依頼を受けて、テストの前日に試験用紙を写し取ろうとした人物を探していた。
今われわれは、50歳の使用人、バニスター氏から話を聴いている。ホームズは言った。
「ソームズさんによると、あなたは具合が悪くなって、窓のそばのその椅子に座り込んだそうですね。なぜ、この椅子に座らなかったのですか? この椅子の方が近くにあったでしょう」
「それに気づかないほど、具合が悪かったのです」
「ありがとうございます。さて、ソームズさん。今度はそれぞれの学生たちと話がしたい」
まず、われわれはギルクリスト氏の部屋に向かった。そして、次にラス氏の部屋。最後に、マクラーレン氏の部屋に向かった。
しかし、マクラーレン氏は怒った調子で「会う気はない」と言った。驚いたことに、ホームズはそれに憤った様子もなく、ただ次のようにソームズ氏に言った。
「マクラーレンさんの背はどのくらいですか」
「ギルクリストさんよりは小さいです。だいたい5フィート6インチくらいでしょう」
「分かりました。明日の朝、もう一度会いましょう。そして、この謎を解き明かします」
次の日の朝、ホームズと僕はソームズ氏の部屋に向かった。ホームズは、バニスター氏と話すことを希望し、氏に対して次のように言った。
「さて、バニスターさん。真実を聞かせてください。あなたがこの椅子に座り込んだとき、あなたは何かを隠した。何を隠したんですか」
「何も隠してなんかいません」
「そうですか。それでは、ギルクリストさんをここに呼びましょう」
バニスターは突然泣き出しそうな表情になった。ギルクリスト氏が到着し、ホームズは言った。
「ギルクリストさん。昨日、あなたはどうして試験問題を見たのですか」
ギルクリスト氏は泣き出した。ホームズは、それを見て言った。
「いいんですよ。人は間違いを犯すものです。何が起きたか、私からソームズさんに話しましょう。
昨日のこと、ギルクリストさんは走り幅跳びの練習から戻ってくるところだった。
彼は、陸上競技用の靴を手に持っていた。ソームズさんの部屋の前を通ったとき、窓越しに試験用紙があるのが見えてしまった。彼は背が高いから、目に入ったんですね。
ギルクリストさん。あなたは部屋に入って靴を机の上に置いた。窓のそばの椅子には何を置いたんですか?」
「手袋です」
「ああ、なるほど。
ソームズさんが部屋に戻ってきたとき、あなたには逃げる時間がなかった。それで、あなたは靴を手に取って、寝室に駆け込んだ。
机の上の傷は、あなたの靴底のスパイクによってできたものだ。土のかけらも、あなたの靴から落ちたものだ。
私は今日スポーツフィールドに行ってみた。そして、そこで見つけましたよ、同じ種類の土を。さて、ギルクリストさん。私の話したこと、合っていますか」
「はい、その通りです」
「さて、バニスターさん。あなたはどうしてギルクリストさんを逃したのですか?」
「私はかつて、ギルクリストくんのお父さんのところで働いていたのです。だからギルクリスト君のことは、彼が子どもの頃から知っています。
彼の手袋を見つけたとき、一生懸命私が世話をしたあの男の子のことを助けたい、と思いました。ホームズさん。分かってくれるでしょう?」
「はい。分かりますとも」
こうしてホームズは立ち上がり、言った。
「行こうか、ワトソン。朝食の時間だ、そしてギルクリストさん、今回のあなたは地に墜ちてしまったが、将来あなたがどれだけ高く飛翔するか、われわれに見せてくださいね」
(「三人の学生」終)