NHKのラジオ番組「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ(Enjoy Simple English)」では、簡単な英語でいろんなストーリーを楽しむことができます。
この番組には、和訳(日本語訳)が付いていません。「英語で聴きなはれ」というわけです。
でも「和訳がほしい」と思う方もいらっしゃいますね。そんな方へ向けて、私の拙訳を公開します。逐語訳ではありません。内容をつかむための参考になさってください。
今回は、かのコナン・ドイル原作 ‘ The Adventure of the Solitary Cyclist ’ (孤独な自転車乗り)の第一話です。では、どうぞ。
ある日のこと、バイオレット・スミスという女性が助けを求めてやってきた。
彼女は言った。
「私は、父が亡くなって母と一緒に暮らしています。叔父のラルフは、およそ25年前にアフリカへ行き、行方不明になりました。そして、およそ4ヶ月前のことでしたが、2人の男性が私と話したいと言ってやってきたのです」
「なるほど。彼らはどんな用件でやってきたのですか」
「その2人の男性―カラザースさんとウッドリーさんは、こう言いました。叔父のラルフは数ヶ月前に亡くなったと。
ウッドリーさんは赤い口髭を蓄えていて、全然感じのいい人じゃありません。でも、カラザースさんは、あごひげも口ひげもありませんし、感じの良い人です。
カラザースさんは、私と母が貧しいと知ると、仕事を紹介してくれました。彼の10歳の娘に音楽を教える仕事です。私はその仕事を引き受けて、平日の間、ファーナムにあるカラザースさんの家にお世話になることにしました。週末には家に戻るんです。
話が奇妙になるのはここからです」
「続けてください」
「毎週土曜日、私は自転車に乗って駅に向かいます。通るのは、ほとんど人通りのない寂しい道です。道沿いに、チャーリントンホールと呼ばれる大きな家があります。
およそ2週間前、自転車に乗った1人の男が大体200メートルくらい私の後ろにいるのを見つけました。彼は短くて黒いあごひげを生やしていました。
奇妙なことに、その男は決して私に近寄って来ず、突然ただ消えてしまったのです。
それからの2週間、その道を私が通るたび、その男が現れました。しかし、そのたびにその男は、ただ消えてしまったのです」
「なるほど。スミスさん、あなたに恋をしていそうな人は誰かいますか?」
「あの赤い口ヒゲを生やしたひどい男、ウッドリーが一度、私にキスしようとしました」
「そうですか・・・他には誰か?」
「ええ・・・間違ってるかもしれませんが、雇い主のカラザースさんが私に関心を抱いているかもしれません」
「ふーむ」
スミスさんが帰った後、ホームズが言った。
「ワトソン。ファーナムに行って、2つのことを調べてくれ。チャーリントンホールには誰が住んでいるのか。そして、ウッドリーとカラザースはどんな関係なのか」
次の月曜日、私はファーナムに出かけ、チャーリントンホールの近くに身を潜めた。
まもなくして、あごヒゲを蓄えた男が自転車に乗って現れ、その家の近くに隠れた。
およそ15分後、スミスさんが自転車に乗って通り過ぎた。仕事のためにカラザース家へ向かっていたのだ。
そのあごヒゲの男は、スミスさんの後を尾けていき、また家のそばへ戻ってきた後、姿を消した。
そんなことがあった後、私は町の不動産屋に行き、ウィリアムソンという名前の男がチャーリントンホールに住んでいることを知った。
私はホームズにすべてを話した。ホームズは喜ぶだろうと思ったが、そうではなかった。ホームズは言った。
「その地域のパブに行って、もっと情報を集めてくればよかったのに」
その次の日、スミスさんから手紙が届いた。そこには、カラザースさんが彼女にプロポーズしたこと、そして彼女がそれを断ったことが書いてあった。その日の午後、ホームズはファーナムに出かけていった。
(「孤独な自転車乗り 第二話」へ続く)