NHKのラジオ番組「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ(Enjoy Simple English)」では、簡単な英語でいろんなストーリーを楽しむことができます。
この番組には、和訳(日本語訳)が付いていません。「英語で聴きなはれ」というわけです。
でも「和訳がほしい」と思う方もいらっしゃいますね。そんな方へ向けて、私の拙訳を公開します。逐語訳ではありません。内容をつかむための参考になさってください。
今回は、かのコナン・ドイル原作 ‘The Adventure of the Dying Detective’ (瀕死の探偵)の第二話です。では、どうぞ。
瀕死の探偵 第二話
僕は、スミス氏とは別行動でホームズの部屋に戻った。部屋に着いて、僕は驚いた。ホームズの具合がずっと良さそうに見えたからだ。
「ホームズ。スミス氏が来るぞ」
「いいぞ! ワトソンは僕のベッドの後ろに隠れていてくれ。スミス氏には、この部屋にいるのは僕だけだと思って欲しいんだ」
僕はベッドの後ろに隠れた。階段を昇る足音が近づいてきた。その訪問者は言った。
「ホームズ! 聞こえるか?」
「スミスさん、来てくれたのか」
ふたたびホームズは、とても弱りきった声で言った。すると、スミス氏が嘲笑うように言った。
「これは、俺の甥の命を奪った病気と同じ病いだ。
君は言ったなあ。“健康な若い男がロンドンの真ん中で珍しい熱帯林病で亡くなるなんておかしなことだ”と。
それから、君はこうも言ったなあ。“あなたがよく知る病気と同じ病いで甥っ子さんが亡くなるなんておかしなことだ”と」
ホームズは答えた。
「あなたがやったということは、わかっている」
「俺がやったさ。だが、俺がやったということを明らかにする術が、君にはない」
ホームズは咳き込みながら言った。
「スミスさん。そこの水をとってくれないか」
スミス氏はホームズに水を手渡した。
「君が死ぬ前に、もうひとつ手助けをしてあげよう。
どうして君が病気になったか、知りたいだろう? 何か異常なことが起きたのを覚えているかい?
ヒントをひとつ出そう。君は郵便で何かを受け取った」
「スミスさん。僕は頭がうまく動かない。死が近いようだ」
「聞くんだ、ホームズ! 君のベッドの側にある象牙の箱を覚えているだろう? 君はこの箱を開けた。そして不調を感じ始めた。そうだろう?」
「ああ、その通りだ。何か鋭いものが中に入っていて、そして・・・指から血が流れ出た」
「馬鹿な奴め。君が俺に関わらないでいれば、俺は君を殺す決断なんてせずにいられたものを。
俺はこの箱をこれから持ち帰る。そうすれば、誰もこの箱のことを知る術はない」
まさにそのとき、部屋の外から足音が聞こえてきた。ドアが開き、一人の警察官が入ってきた。
ホームズは、平常通りの声で言った。
「すべては計画通り進みました。やったのは、この男です」
その警察官は言った。
「カルバートン・スミス。自身の甥を殺害した容疑で逮捕する」
「それと、シャーロック・ホームズ殺害未遂の容疑もあるね」そう言って、ホームズは笑った。
「おまわりさん。スミス氏の右のポケットに象牙の箱が入っています。その箱は気をつけて扱ってください。
そして、ワトソンが私のベッドの後ろに隠れていますが、彼がスミス氏の自白を聞いています。自身の甥を殺害した、という自白をね。
この事件は難しかった。僕はあまりたくさん食べる方ではないが、しかし、3日間食べないでいるのはチャレンジだった」
僕はホームズに聞いた。
「実際は病気でないなら、どうして僕に近寄るななんて言ったんだ?」
「ワトソン。君には、僕が病気だと思ってもらう必要があった。そうでないと、スミス氏が君の言うことを信じないじゃないか。
ところで、あの象牙の箱が何かおかしいってことは分かっていた。だから、僕はあの箱に一切触れていない。スミス氏はたぶん、何か似たような手段で自身の甥を殺害したんだろう。その目的は金だ。
さて、ワトソン。警察署に行こう。それからディナーだ。僕には食事が必要だ」
(「瀕死の探偵」終)