NHKのラジオ番組「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ(Enjoy Simple English)」では、簡単な英語でいろんなストーリーを楽しむことができます。
この番組には、日本語訳(和訳)が付いていません。「英語で聴きなはれ」というわけです。
でも「日本語訳がほしい」と思う方もいらっしゃいますね。そんな方へ向けて、私の拙訳を公開します。逐語訳ではありません。内容をつかむための参考になさってください。
今回は、かのコナン・ドイル原作 ‘The Adventure of Charles Augustus Milverton’ (犯人は二人)の第二話です。では、どうぞ。
犯人は二人 第二話
ホームズと僕は、ミルバトンのオフィスに忍び込んだ。
「手紙はあの金庫の中だ」
部屋の中は、暖炉に燃える炎のおかげで明るかった。
暖炉の脇には窓がひとつあって、厚手のカーテンがかかっていた。もう一方の脇にはドアがあって、庭へとつながっていた。部屋の角に、背の高い緑色の金庫があった。
ホームズが金庫の構造を調べている間に、僕はドアの状態を確認した。驚いたことにドアには鍵がかかっていなかった。
「ワトソン。急がなくちゃいけないな。あっちのドアによく気をつけていてくれ。
もし誰かが近づいて来たら、あのドアの鍵をかけてしまってくれ。そしてわれわれは、庭に続くドアから逃げだそう。もし誰かがドアから入ってきてしまったら、われわれはあのカーテンの後ろに隠れるとしよう」
そしておよそ30分後、ホームズは金庫を開けることに成功した。しかし、その中を覗き込もうとして、突然ホームズは金庫を閉め、カーテンの後ろに僕を引っ張り込んだ。
僕には何が起きているのかわからなかった。だが、すぐに僕の耳にも足音が聞こえてきた。
そして、誰かが部屋の中に入ってきた。僕はカーテンをほんの少し開けてみた。ミルバトンの背中が見えた。ミルバトンは椅子に腰掛けて、何か書類を読んでいた。
前触れもなく、背の高い痩せ型の女性が、鍵のかかっていないドアから部屋に入ってきた。彼女は黒いベールで顔を覆っていた。ミルバトンが言った。
「手紙を売りたいんだろう? 君の雇用主の人生を破滅させかねない手紙を。見せてくれ」
そのときだった。女性がベールを脱いだ。ミルバトンは驚きの表情を浮かべて言った。
「なんと。お前だったのか」
その女性は答えた。
「ええ、私よ。あなたは私の人生を破滅させた。あんな手紙を送りつけられて、夫は心を痛めて死んだわ」
ミルバトンは苛立ちを浮かべ、鼻で笑った。女性は続けた。
「私はあなたに頼んだ。手紙を送らないでくださいと。でもあなたは、ただ鼻で笑うだけだった。あなたは、それで今幸せ? 何か私に言うことはないの?」
「帰れ。言うことはそれだけだ」
突然、その女性は銃を取り出し、ミルバトンに照準を合わせて言った。
「あなたをこの世から消し去ってあげる。もう二度と、人の人生を破滅させたりなんてできないようにね」
そして、彼女は引き金を引いた。ミルバトンは床に崩れ落ち、動かなくなった。女性はすぐに立ち去った。
これを見ていたホームズが言った。
「われわれの仕事を終わらせて、帰ろう」
ホームズは、金庫からすべての手紙を取り出すと、暖炉の火の中に投げ込んだ。そしてわれわれは、庭を横切り、塀を乗り越えた。すんでのところで僕は何者かに捕まるところだった。が、逃げのびた。
その翌日、一人の警官がホームズのオフィスにやってきて言った。
「昨夜、ミルバトンという男が殺されました。警察の支援をお願いできませんか? 被害者の家から走り去る二人の男が目撃されています」
「二人の男ですって?」
「ええ。そのうちの一人は平均的な身長で筋肉質でした。彼は口髭を蓄えていたそうです」
「おや! 少しワトソン君に似ていますね」
「はい、そうなんです!」
「何にせよ、恐縮ですが、警察のお手伝いはできません。ミルバトンのことは知っています。あいつはロンドンで最も危険な男の1人だった。このたびは、犯罪者の味方をさせてもらいますよ」
(「犯人は二人」終)