NHKのラジオ番組「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ(Enjoy Simple English)」では、簡単な英語でいろんなストーリーを楽しむことができます。
この番組には、日本語訳(和訳)が付いていません。「英語で聴きなはれ」というわけです。
でも「日本語訳がほしい」と思う方もいらっしゃいますね。そんな方へ向けて、私の拙訳を公開します。逐語訳ではありません。内容をつかむための参考になさってください。
今回は、かのコナン・ドイル原作 ‘The Adventure of Charles Augustus Milverton’ (犯人は二人)の第一話です。では、どうぞ。
犯人は二人 第一話
ある寒い冬の日、ホームズと僕が散歩から帰ってくると、テーブルの上に1枚の名刺が置いてあった。
その名刺は、チャールズ・オーガスタス・ミルバトンという男のもので、名刺の裏には「6時半に戻ってくる」というメッセージが残されていた。
ホームズは言った。
「ミルバトンは、ロンドンで最悪の男だ。こいつは、有名人にとって人に知られたくないことがしたためられた手紙を集めているんだ。
で、こいつはその有名人たちに言うんだ。『もし金を払わないなら、秘密を皆にばらすぞ』とね。こいつは、これまでにたくさんの人々の人生を壊しているんだ」
「なんてことだ。どうしてそんな奴がここに来ようなんて?」
「僕が来るように言ったんだ。
僕の顧客であるエヴァ・ブラックウェルさんが2週間後にある裕福な男と結婚するんだが、ミルバトンは、エヴァさんがかつて別の男性に対して書いたラブレターを複数所持している。
ミルバトンは、その手紙をエヴァさんの婚約者に送りつける計画なんだ。もしエヴァさんが莫大なお金を払わないならば、ね。
それでエヴァさんは、ミルバトンと交渉してくれるよう僕のところへ頼みに来たってわけさ」
ちょうどその時、事務所のドアが開いてミルバトンが入ってきた。ミルバトンは言った。
「よし、ホームズくん。ビジネスをしよう。エヴァは、あの手紙を公開しない代わりに7000ポンドを支払うってことに同意したかい?」
「僕が思うに、エヴァさんは婚約者に対してあの手紙のことを打ち明けるだろうよ。そして、婚約者の男性はきっと彼女を許すさ」
ミルバトンは、それを聞くと笑って言った。
「俺はそうは思わないな。でも、ホームズくんがあのラブレターは問題にならないと信じるなら、婚約者の彼に送ってやろうじゃないか」
ミルバトンは立ち去ろうとしたが、ホームズが言った。
「待ってくれ。スキャンダルは望まない。エヴァさんは裕福じゃない。だから、せいぜい2000ポンドしか払うことができない」
「ふうん。それは残念なことだ」
「考えてみてくれ。もし君がその手紙をエヴァさんの婚約者に送りつけて、エヴァさんの人生をぶち壊しにしたとしよう。でも、それで君は1ポンドも得るわけじゃないだろう?」
「そんなことはない。
俺はこれと似たような事例を10ほど抱えている。俺がその金づるたちに対して『俺はやると言ったらやるんだ』ってことを示したら、その金づるたちは俺の言いなりに金を払うだろうさ」
ホームズは怒りの表情を浮かべて言った。
「ワトソン。そいつをここから出すな」
ミルバトンは、銃を取り出して言った。
「俺はためらいなく撃つぜ。この状況じゃあ、法に反してもいない。帰らせてもらえるかな? 」
こうしてミルバトンは去った。
およそ30分の間、ホームズは暖炉の前に黙って座っていた。そして、自分の部屋に入っていったかと思うと、配管工のような装いで出てきて外出していった。
数日後の嵐の夜、ホームズが帰ってきて言った。
「ワトソン。今夜僕は、ミルバトンの家からあの手紙を盗み出すつもりだ」
この数日間でホームズはミルバトンの家のメイドと仲良くなって、ミルバトン家のことをあれこれ探り出したのだそうだ。
「もし僕があの手紙を今夜盗み出さなければ、あいつは手紙をエヴァさんの婚約者に送りつけてしまうだろう。そうなれば、エヴァさんの未来は破滅する。そんなことにはさせない」
(「犯人は二人 第二話」へ続く)