NHKのラジオ番組「エンジョイ・シンプル・イングリッシュ(Enjoy Simple English)」では、簡単な英語でいろんなストーリーを楽しむことができます。
この番組には、和訳(日本語訳)が付いていません。「英語で聴きなはれ」というわけです。
でも「和訳がほしい」と思う方もいらっしゃいますね。そんな方へ向けて、私の拙訳を公開します。逐語訳ではありません。内容をつかむための参考になさってください。
今回は、かのコナン・ドイル原作 ‘The Adventure of the Dying Detective’ (瀕死の探偵)の第一話です。では、どうぞ。
瀕死の探偵 第一話
シャーロック・ホームズは賃貸アパートに住んでいて、家主はハドソン夫人という女性だった。ある日僕は、ホームズが極度に衰弱していることをハドソン夫人から知らされた。
「ワトソンさん。ホームズさんが死にそうなんです。今すぐ私と一緒に来てください」
「どうしたんです。ハドソンさん」
「ホームズさんが港湾での仕事の後、病気になって帰ってきたんです。一緒に働いた外国人から何かの病気をもらってきたんじゃないかと思います。もう3日も食事をしていないんです」
僕がホームズの部屋に着くと、ホームズは衰弱してベッドに横たわっていた。ホームズは言った。
「ワトソン。僕の運も尽きたようだ」
僕はホームズのほうに一歩近寄った。しかし、ホームズは鋭い口調で「僕に近寄るな! これは熱帯林病だ。もし僕に触れれば、感染するぞ」と言った。
「僕は熱帯病の専門医を知っている。すぐにここに来てもらおう」
すると驚いたことに、瀕死状態の探偵は飛び起きて、ドアに鍵をかけたのである。そして、ゆっくりとベッドに戻った。
「まずは休ませてくれ。それから誰かを呼んでもいいから」
そう言って、ホームズは目を閉じた。
僕は部屋の中を歩きまわった。そして、象牙でできた白黒の箱を見つけた。その箱にはスライド式の蓋が付いていた。僕がそれを手にとると、突然、ホームズの叫び声が聞こえた。
「ワトソン。その箱を置くんだ。すぐに!」
そして、ホームズは再び眠りについた。 6時になって、ホームズは話し始めた。
「そこのシュガートングを使って、その小さな象牙の箱をそばの机に置いてくれ。ありがとう。
次は、カルバートン・スミス氏をここへ呼んでくれるかい。スミス氏はローワーバーク通りに住んでいる。この人は、僕の病気について誰よりもよく知っている。
スミス氏は僕のことが好きじゃない。その原因は、ある事件をめぐって彼の甥に関する捜査を僕が行ったことにある。
だが、忘れないでくれ。スミス氏には必ず「ホームズが死にそうだ」と言うんだ。そうすればきっとスミス氏は来る。それと、君は必ずスミス氏よりも先に戻ってくるんだ」
* * *
スミス氏は機嫌が良くなかった。僕が話しかけると「何をしにきたんだ?」と彼は言った。
「申し訳ありません、スミスさん。でもシャーロック・ホームズが・・・・・・」
僕がホームズの名前を口にすると、突然スミス氏は興味を示した。
「ホームズ君はどうしてる?」
「ホームズは熱帯林病という重い病気にかかっています」
僕は、鏡の中でスミス氏が笑みを漏らすのを見た。彼は、椅子に座り直して言った。
「それは、とても気の毒なことだ」
「ホームズが言うには、あなたはこの病気にとても詳しいそうですね。ホームズを助けてくれませんか?」
スミス氏は、今度は破顔して言った。
「そういうことか。ホームズ君は、どうして自分がこの病気にかかったと考えているんだ? それと、いつから病気の症状が出ているんだ?」
「ホームズが言うには、港湾で働いた後、症状が出たそうです。症状が出てから3日になります」
「とても深刻な状況のようだ。すぐに一緒に行こうじゃないか」
スミス氏よりも先に戻ってくるようホームズに厳命されていたので、僕はこう言った。
「私には別の約束があって、スミスさんには一人で行ってもらわなければならないんです」
「それで問題ない。だいたい30分後には、ホームズ君のところにつけるだろう」
(「瀕死の探偵 第二話」へ続く)